コホート分析の詳しい仕組みと読み方
コホート(Cohort)とは「同時期に特定のアクションを起こした集団」のことです。EC分野では「同じ月に初回購入した顧客グループ」として使われることが多く、そのグループのその後の行動を時間軸で追跡します。
典型的なコホートテーブルは、縦軸に「初回購入月」、横軸に「経過月数」を取り、各セルに「残存率(リピート率)」を記入します。例えば以下のように読み取ります。
- 1月コホート:1ヶ月後残存率 25%、3ヶ月後 18%、6ヶ月後 12%
- 2月コホート:1ヶ月後残存率 32%、3ヶ月後 24%、6ヶ月後 16%
- 3月コホート:1ヶ月後残存率 28%、3ヶ月後 20%(以降は未到来)
この表から「2月の新規獲得施策は効果が高かった」と判断できます。コホート分析の本質は「入り口の施策が、その後の定着にどう影響したか」を評価する点にあります。広告チャネル別、キャンペーン別にコホートを切ると、どの集客経路が「質の高い顧客」を連れてきたかが明確になります。
ただし、コホート分析は「集団の傾向」を見るものであり、「今、この顧客にどんなアクションを取るべきか」という個別の問いには答えられません。ここにRFM分析の出番があります。
RFM分析の詳しい仕組みとスナップショットの意味
RFM分析は、全顧客の「今この瞬間の状態」をRecency(最終購入日からの経過日数)、Frequency(累計購入回数)、Monetary(累計購入金額)の3軸で評価し、スナップショットとして切り取ります。
コホート分析が「いつ入ってきたか」を起点にするのに対し、RFM分析は顧客がいつ入ってきたかを問いません。3年前に初回購入した顧客も、先週初めて買った顧客も、同じ基準で「今の状態」を評価します。
このスナップショットの特徴は、即座にアクションにつなげられることです。「今、離脱しかけているロイヤル顧客は誰か?」「今、2回目購入を促すべき新規顧客は誰か?」という問いに対して、具体的な顧客リストが返ってきます。CRM担当者が「明日送るメールの対象者」を決めるのに適した分析手法です。
ただし、RFMのスナップショットだけでは「なぜそのセグメントに変化が起きたか」の原因特定が難しいという弱点があります。ここにコホート分析を併用する意義があります。
両者の比較(適したユースケース)
両分析手法の特徴を整理すると、以下のように使い分けられます。
- 分析の視点:コホートは「時間軸(いつ獲得した顧客か)」、RFMは「状態軸(今どんな顧客か)」
- 主な用途:コホートは「過去の施策評価・プロダクト改善」、RFMは「日々のCRM施策・ターゲティング」
- アウトプット:コホートは「残存率カーブ、傾向グラフ」、RFMは「顧客リスト、セグメント構成比」
- 更新頻度:コホートは「月次で十分」、RFMは「週次〜日次が理想」
- 得意な問い:コホートは「この施策で獲得した顧客は定着したか?」、RFMは「今すぐアプローチすべき顧客は誰か?」
- 苦手な問い:コホートは「今日何をすべきか?」、RFMは「なぜ離脱が増えたか?」
どちらかが優れているという話ではなく、問いの種類に応じて使い分けるのが正解です。
併用する実践パターン
実務では、コホート分析とRFM分析を併用することで、分析の精度とアクションの質を大きく向上させることができます。具体的な併用パターンを紹介します。
パターン1:コホートで発見→RFMで対処
コホート分析で「4月獲得コホートの3ヶ月後残存率が異常に低い」ことが判明したとします。次にRFM分析でそのコホートの顧客を抽出し、現在のRFMセグメント分布を確認します。すると「4月コホートは他の月に比べてR1〜R2の休眠層に大量に流れている」ことが分かり、その顧客群に対して復帰施策を打つことができます。
パターン2:RFMで異変検知→コホートで原因追求
RFM分析で「今月、離脱予備軍が急増した」という異変を検知したとします。しかし、RFMだけでは原因が分かりません。そこで離脱予備軍に落ちた顧客を獲得時期別に分解(コホート化)すると、「昨年のブラックフライデーで獲得した顧客が一斉に離脱している」ことが判明。つまり、安売りで集めた顧客の質が低かったという根本原因が特定でき、次年度の獲得戦略に反映できます。
パターン3:定点モニタリングの組み合わせ
月次ではコホートテーブルを更新して「入り口の健全性」を確認し、週次ではRFMセグメント遷移を確認して「今の健全性」をチェックする。この二重モニタリングにより、問題の早期発見と正確な原因特定が同時に実現します。
どちらから始めるべきか?(フェーズ別ガイド)
「両方大事なのは分かったが、リソースが限られている中でどちらを先にやるべきか?」という問いに対して、事業フェーズ別に回答します。
- 立ち上げ期(月間顧客数〜1,000人):まずコホート分析から。この段階では「獲得した顧客がちゃんと定着しているか」がすべてです。プロダクトや初期体験に問題がないかを確認することが最優先です。
- 成長期(月間顧客数1,000〜10,000人):RFM分析を導入するタイミング。顧客数が増え、「全員に同じ施策」では効率が悪くなります。セグメント別のアプローチを始めましょう。コホートは月次の健康診断として継続します。
- 成熟期(月間顧客数10,000人〜):両者を本格併用し、さらにセグメント別コホート分析(例:ロイヤル顧客だけのコホートカーブ)など、高度な分析に発展させます。
分析ツール選定の視点
コホート分析とRFM分析では、ツールに求められる機能が異なります。選定時には以下の点を確認しましょう。
コホート分析に必要な機能:「初回購入日」でのグルーピング、月単位の残存率自動計算、複数コホートの比較表示、CSVエクスポートによるレポーティング。Google Analyticsの標準機能や、BIツール(Looker Studio、Tableauなど)で比較的容易に実現できます。
RFM分析に必要な機能:リアルタイムに近いデータ更新、柔軟なスコアリング基準設定、セグメント別の顧客リスト抽出、セグメント遷移の自動追跡、施策ツール(メール、LINE等)との連携。Excelでも基本は作れますが、運用を自動化するには専用ツールが必要です。
理想は、両方の分析を一つのプラットフォームで完結させ、データの二重管理を避けることです。「コホートで俯瞰し、RFMで行動する」という流れがツール上でシームレスに実現できるかどうかが、選定の重要なポイントになります。